2025.12.06
金沢のおさかな(たらこ編)
「このケースには紅葉子(もみじこ)を入れるんです」
もみじこって、あれ?福岡名物の紅く色付けされた、鱈子(たらこ)のこと?
紅葉子がたらこである、という知識は何故かあったけれど、殆ど耳に残らずにいた言葉がここでは聞かれる。東京でたらこと言ったら、スケソウダラの卵を漬け込んだお馴染みの紅色の鱈子であるから、たらこをわざわざ紅葉子などとは言わない。
金沢で「たらこ」と言ったら、真鱈の卵であり、冬の声を聞くと春先まで、この、ドーンと大きな真鱈の卵を魚屋やスーパーでも沢山見かける。
そもそもこの街では魚卵を沢山見かける。東京では真鱈の卵は築地の場外市場などに行かないと手に入らないような珍しいものであったので、あちこちに普通に販売されているのを見て、ここが歴史深いお魚の国であると感じる。

この鱈子をどのように料理をするのか。
一般的な魚卵の食べ方として、筒切りにして甘辛く生姜と共に煮付けるというものがある。私の記憶の中の黄色い大きな真鱈の卵も、この筒切りにして花が咲いたようになった魚卵の煮付けである。これだと、煮上がるのに時間が僅かで済む。急いでる時は筒切りが手っ取り早い。

鯛子やスケトウダラの卵もこのようにするが、真鱈の卵は兎も角大きい。筒切りで煮るのは手軽であるが、煮汁に卵がホロッと落ちる事を考えると、どーんと大きなまま切らずに煮付けて、火を通した鱈子を切って煮汁を煮含ませるとそんなもったいないことはなくなる。また、筒切りで花が咲いたようになったものと、しっかり形のまま煮上がったものの食感の違いが面白い。
土地の魚屋さんにどのように調理をされるか伺うと、丸のまま熱を通した後、切ってから煮汁に入れて味を含めるようにして店頭販売する鱈子の煮付けを作成されるそうで、今時は生の鱈子も売ってはいるが、煮付けた物の方が売れるそうだ。
言われたら作りたくなるのが人情。
作ってみたら、結果、大人の味。
ちょっと高級な肴のアテになる。

ホトホト、ホトホト、ゆっくり熱を通して火入れをし、丁寧に切ってから煮含めるこの真鱈の卵はしっとりと美味しくて冬の醍醐味である。
驚いたのは、鱈やカジキマグロ(この土地では鰆(サワラ)という)の昆布締めに、この真鱈の卵をパラパラに炊いたものを塗した『子付け』という料理がある。

鱈子をバラバラにして蛇口を細くひねって絶えず水がソロソロ流れるようにしながら半日ほど晒したものを、日本酒・砂糖・みりん・塩・少しの醤油などの調味料であっさりと炒りつけた魚卵は此処で初めて見た食べ物でした。どうしてそんな風にしようとしたのかはわからないけれど、加賀百万石の料理は奥深く、知らなかった食文化がどんどん出てくる。
そもそも鱈を生で食べる、というのも、知らなかった。私の中で、鱈は鍋やバター焼きにする物であって、切り身の時点で普通に生臭い魚であった。
その魚が金沢では鱈が刺身で食べられるのだ。全く臭くないのが衝撃であった。
鱈の刺身の他、サワラ(カジキマグロ)に付けることもある。
子付けはスーパーでも売っているが、昨今の子付けの卵は鱈の仲間のメルルーサの卵を炊いた物が瓶詰めになって多く出回っているため、やはり真鱈の子を丁寧に炊いた物とは味が違うと仰って、料理屋さんや老舗の魚屋さんでは子付けの卵を手ずから調理される。
今年の冬は、各店の子付けを食べ比べてみたい、と思う。